養 老 健 康 百 話
第一話 前立腺ガン

天皇陛下のお陰

 前立腺がんは進行が遅い。寿命を全うして亡くなられた老齢者を解剖すると前立腺がんが見つかることが多い。寿命には関係のない潜在がんは高齢者の40%くらいにあるらしい。早期発見し、治療すればそれほど怖いがんではない。しかし、初期には自覚症状がないため、気がついた時には骨やリンパ節に転移しているケースが多い。
 先般、天皇陛下に前立腺がんが発見され、手術が成功し、お元気な姿がテレビで放映された。それから前立腺がんの検診を受ける人が急増し、早期発見で命拾いした人も多かったとのことである。
 欧米では男性がんの罹患率第一位はこの前立腺がんである。日本では食事などの生活習慣が異なるためか、まだそれほど患者の数は多くないが、食生活の欧米化と長寿化に伴い急速に前立腺がんが増えつつある。

早期発見には腫瘍マーカーと触診

 前立腺がんは自覚症状も排尿障害も少ないので、健康診断や他の病気のための検査で偶然に見つかることが多い。六十歳を過ぎたら前立腺がんの検査を加えておくのが賢明である。検査は触診と腫瘍マーカーで行われる。触診は医師が肛門に指を入れて行うが、別に苦痛はない。平行して腫瘍マーカーの血液検査が行われる。この数値が高く、触診でしこりらしきものがあるようだと、細胞を採取しての生検となる。生検でがん細胞が見つかっても寿命には当面関係なさそうなものは経過観察するだけ、早期がんや進行がんであれば手術、内分泌療法、放射線療法などの治療が行われることとなる。

熟年男性の大多数に排尿障害

 男性用トイレには「一歩前進」などと言う注意書きがよくある。尿の雫を垂らし、床を汚す人が多いからである。これらの犯人は前立腺肥大症を患う熟年男性に多い。前立腺肥大症になると、小便が終り一物をしまおうとすると尿が漏れたり、小便の出方に勢いがなく雫が後に廻ったりして、ズボンや床を汚すことが多くなる。
 小便の出始めと終りに時間がかかる、途中で途切れる、力を入れねば出難い、残尿感あるなどが前立腺肥大症の症状である。命に関わる病気ではないから、生活に不便がなければ治療の必要はない。しかし、残尿が多くなると腎臓がやられたりすることが多いので、年だからとあきらめずに検査して治療した方がよい。重症でなければ、薬を飲むだけで、完治はしないが症状を軽くしたり、病状の進行を抑えることもできる。ついでに前立腺がんの検査もやってもらえば一挙両得である。

治療法は症状に応じて多彩

 治療法は症状の原因や程度、患者の望む生活の質(QOL)によって様々である。例えば、軽症者に対する薬物療法では、交感神経の働きを抑えるアルファ遮断剤や前立腺肥大を抑える抗男性ホルモン剤などが使われる。いずれも多少の副作用の心配があり、完治はしないので中・重症者には治療が行われる。治療法も日進月歩で外科手術に比べて体への負担の小さいレーザー治療や温熱療法が採用されることもある。重症者には内視鏡手術が行われ、肥大部分が高周波電流により切除される。
 いずれの治療法にも効果と共に合併症の危険性はあるので、医師との充分な事前の話し合いが大切になる。
                                   以上