養 老 健 康 百 話

長生きより健康長寿(ピンピン・コロリ)

養老健康百話-12

長生きより健康長寿(ピンピン・コロリ)

 日本は世界一の長寿国である。西暦2000年で日本人の平均寿命は、男77.7年、女84.6年で現在もその記録を年々更新している。一体どこまでこの記録は伸びるのだろうか。

 日本人の三大死因はガン、心臓疾患、脳血管疾患である。この三大疾患を全部制圧したらどうなるのだろうか。厚生労働省の試算によると男性で約7年、女性で約6年強平均寿命が伸びる。予想より伸びが少ないような気がする。ガンや脳卒中、心筋梗塞で死ぬ人がゼロになつても、素晴らしいこととは言え、この程度なのである。それに、これらの三大疾患が全部無くなる日はまだまだ遠い。

 人間の生物学的限界寿命は120歳前後らしいが、日本人の平均寿命の延びも鈍化し、そろそろ限界に近づきつつある。そこで、最近は単に寿命を伸ばすのではなく、伸びた寿命の中身、生活の質が問われるようになってきた。長生きしても、ただ息だけしているのでは仕方が無い、元気に生きぬいて、ボケにもならず、長く寝込まないで死ぬ(ピンピン・コロリ)ことが理想だと云われるようになって来た。健康寿命の考え方の登場である。

 健康寿命とは、人生全体の中でピンピンして健康に暮らせる期間のことで、生存期間だけを計る平均寿命とは異なる考え方である。健康に暮らすと云っても、健康には色々なレベルがあるので厳密に定義するのは難しい。障害や持病があっても、一病息災で明るく前向きに充実した人生を送っている人々は多い。一般的には、疾病や障害の有無にかかわらず、食事、排泄、着替え、入浴などの生きて行く上で基本となる身辺処理が自立してできる期間を健康寿命の期間としている。

元気な健康老人に学ぶ

 高齢になると、各人の健康度、老化の程度には大きな差が生じる。百歳でも現役のスキーヤーやオペラ歌手がいるかと思えば、早々と五十歳で寝たきりになってしまう人もいる。  老化は避けられぬが、そのスピードには個人差が大きい。

 老化のスピードが遅く、歳はとっても心身機能が衰えない健康長寿の高齢者はどのような生活を送っているのだろうか。1998年、国民健康保険中央会は全国市町村で80~85歳の健康老人3,159人に聞き取り調査を行った。その結果、これらの健康老人に共通する特徴が次の「健康老人十二ヶ条」にまとめられた。

健康老人十二ヶ条

    @食事は一日三回規則正しく

    Aよく噛んで食べる

    B野菜・果物など食物繊維をよく摂る

    Cお茶をよく飲む

    Dたばこは吸わない

    Eかかりつけ医を持っている

    F自立心が強い

    G気分転換のための活動をしている

    H新聞をよく読む

    Iテレビをよく見る

    J外出をすることが多い

    K就寝、起床時刻が規則的

 各項目の中身詳細については、次回以降他の文献からの情報も加えて紹介する。これらの健康高齢者達は、基本として健康的な生活習慣を守っている上に、何事においても活発に前向きに行動していることが目立つ。

亭主を早死にさせる十ヶ条

 以前、心身健康ニュースで報告したが、米国のメイヤーという人がブラック・ユーモアで、亭主を早死させる秘訣を発表した。これを若干修飾補足して次に紹介する。健康老人十二ヶ条と対比すると参考になる。

@ 腹一杯食べさせ肥らせる。特に、脂っこいものや甘いものを沢山勧める。(過食・肥満)

A 殿様扱いで座らせ、体を使わせない。散歩、水泳などの運動には反対する。(運動不足)

B 酒は百薬の長などと云って、昼間からでも飲ませる。居間、食堂には酒類を常時並べて置く。(飲酒)

C 料理の味付けは濃い目に塩分を多くする。(塩分過多)

D 野菜は少なめにして、脂身の肉、バターなどの動物性脂肪をたっぷり食べさせる。(脂肪過多、野菜不足)

E 濃い目の珈琲に砂糖をたっぷり入れて、一日に何杯も飲ませる。(糖分過多)

F 禁煙はストレスの源、肥満の原因などと云って反対し、喫煙を勧める。(喫煙)

G 面白そうなテレビ深夜番組など探してやり、夜更かしさせる。(不規則生活、睡眠不足)

H 休暇旅行などの休養はとらせず、尻をたたいて休日出勤、残業で稼がせる。(過労)

I 朝から晩まで相手の欠点を探し出し、ガミガミ口うるさく文句を云う。(ストレス過剰)

 中々頭脳的な殺人計画で、これなら殺人罪に問われることもなく亭主を早死にさせるのに成功しそうである。心当たりある方は御用心下さい。

                辻一郎「のばそう健康寿命」岩波アクティブ新書より