養 老 健 康 百 話
第二話 ガンは治療も予防も難しい
 日本人の平均寿命は世界一となり、毎年その記録を伸ばしている。そもそも、人間の寿命は115才前後と言われているから、まだまだ記録更新は続きそうである。

 現在、その日本人の寿命延長の前に立ちはだかる死因の第一位はガンであり、毎年約三十万人もの人々がガンに倒れている。ガンに対する研究は世界中で行われ、ガン発生の筋道などはかなり解明されてきたし、ある種のガンには有効な治療が行われるようになってきた。しかし、大部分のガンについては未知の分野が多く、本当に有効な治療方法は見つかっていない。

 予防に関しては、禁煙を含むバランスのとれた良い食習慣と運動習慣、充分な休養などが奨励されている。これらの健康に良い生活習慣は老化を遅らせ、結局は老化現象の一種であるガンの予防には有効であると推定されている。しかし、排気ガス、紫外線、天然放射能、食品添加物などなど、すべての発ガン物質を完全に排除するのは難しい。さらに、体内でも発ガン物質であるある種のホルモン、胆汁、活性酸素などが次々と産出されているので、ガンの完全予防は不可能である。

抗ガン剤乱用が命を縮める

 そこで、第二次予防策として「早期発見早期治療」が説かれ、ガン検診が奨励されている。ガンは早期に発見すればするほど治癒し易いというのが現代医学の常識である。この常識に真っ向から挑戦したのが、慶応大学の近藤誠氏である。

 その著書「患者よ、がんと闘うな」(文芸春秋社)では、ガンに手術はほとんど役立たない、抗ガン剤の効くのは10%のガンだけ、ガン検診は百害あって一利なしという医学常識と正反対の意見である。特に抗ガン剤の副作用と過剰手術の後遺症が患者を苦しめ、その命を縮めていると警告している。

 我々の周囲にも今まで元気だったのにガンが発見され、入院して治療を始めた途端に弱って死んでしまったという例は多い。抗ガン剤は白血病や小児ガンなど数種類のガンには有効であり、乳ガンや卵巣ガンなどには延命効果が期待できる。しかし、その他の大部分のガンの治癒には無効であり、ガンを小さくすることは出来ても、健全な他の臓器を確実に傷め、副作用で患者を苦しめているだけだというのである。

ガン検診は有害?

 近藤氏は早期発見以前に他の臓器に転移する本物のガンと転移しない偽者のガン(がんもどきガン)があり、本物のガンは手術も抗ガン剤も無効であり、がんもどきガンは症状が出てきてからでも充分に治療が間に合う。従って、早期発見のために費やす時間と費用、患者の苦痛は全て無駄であり、内視鏡による肝炎やピロル菌の感染、放射線被爆による発ガンの危険性もあるのでむしろ有害だというのである。

 この検診有害論に対しては川端氏(東京共済病院)が、がんもどきガンが途中から本物ガンに移行するする場合もあるし、乳ガンと子宮ガンではその有効性が国際的にも認められているのだから、検診による早期発見治療は有効であると反論している。

過剰になりやすい手術

 日本ではガンに罹ると手術が不必要の場合でも大勢の患者が手術されてしまう。手術では転移を恐れ、念のためにと周囲のリンパ節の切除が行われる。その際、周囲の神経も切られることが多く、様々な後遺症をもたらす。それにリンパ節はガン細胞の転移を防ぐフィルターの役目と再発を防止する免疫作用を持っているから、転移があるものは別としてなるべく多く残しておきたい。近藤氏はがんもどきガンは転移しないから、手術は最小限に止め、抗ガン剤は使わないほうがよい、本物ガンで抗ガン剤の無効なものは苦痛を少なくするバイパス手術や放射線治療、モルヒネ投与などの対症療法に止め、切除手術は避けるべきだと主張している。

三大療法を否定する異説登場

 この近藤説の発表以降、ガンの過剰手術は減少し、抗ガン剤の乱用も少なくなったようである。近藤氏は自身が放射線専門医であるせいか、手術より放射線の効くガンには放射線治療を推奨しているが、ここでまた放射線治療にも反対する新説が発表された(文芸春秋、本年九月号、安保徹)。それは、免疫学の立場から、免疫の力を低下させる現在のガン治療の三大療法(手術、抗ガン剤、放射線)は間違っているという主張である。(続く)