養 老 健 康 百 話
第五話 インフルエンザ
養老健康百話-5

          インフルエンザのワクチン接種は年内に

 今年の春、東南アジアを中心に猛威を振るった感染力の強い新型肺炎SARSが今年の冬に再び流行するのではないかと懸念されている。主な症状である高熱、頭痛、筋肉痛、関節痛、倦怠感などはインフルエンザと区別し難い。インフルエンザ予防ワクチンの接種をしておくと70%くらいの人々はインフルエンザウィルスが感染しても発症しないし、発症しても軽症で済む。このワクチンはSARS予防には直接有効ではないが、まぎらわしいインフルエンザの発症を防ぐのでSARSの早期発見に役立つ。

 インフルエンザの流行は年末から三月頃までで、接種から有効になるまで約二週間はかかるから、遅くても年内にはワクチンの接種は済ませておきたい。特に、今年は新型肺炎の影響もあり、ワクチンを打つ人が増えるだろうから、ワクチン不足の心配もある。

 インフルエンザをこじらせると肺炎などの余病を併発し、抵抗力の弱い幼児や年寄りは死ぬことさえある。インフルエンザによる死亡者の85%は65才以上の高齢者だから、とくに喘息や慢性気管支炎、肺気腫など呼吸器系統の疾患を持つ高齢者はなるべくワクチンを接種しておいた方がよい。

 医療機関や市町村によって異なるが、65才以上の高齢者と心臓や肺に疾患のある人には自治体から費用負担があり、\1,000.~\3,000.くらいの料金でワクチン接種ができる。

           新しい特効薬で治療法に革命的変化

 二三年前までは、インフルエンザに罹っても、普通の風邪と同様に安静第一で、症状によって解熱剤、頭痛薬、咳止め、抗生剤を投与する対症療法しかなかった。しかし、現在ではインフルエンザウィルスに直接効く抗ウィルス薬が開発され、治療法に革命的な変化が起きた。

 発症後早期にこの抗ウィルス薬を服用すると、急速に熱も下がり、二三日で病状が回復するようになった。また、インフルエンザかどうかを迅速に診断する診断キットも開発され、鼻や喉の粘液を綿棒で採り、診断キットで調べると20~30分でインフルエンザかどうかの確定診断ができるようになった。

 しかし、この特効薬も発症後48時間以内に飲まないと効果がない。受診のタイミングは早ければ早いほどよい。従って、高熱、筋肉痛などの全身症状があり、インフルエンザが疑われる場合は早めに医師に診てもらうことが大切である。「風邪くらいで医者になどかかれない、二三日寝てれば治る」などと昔風に我慢しているのは間違いである。「かかったかなと思ったら、すぐ医者に行く」が正解である。

             肺炎球菌ワクチンも一緒に

 新聞の死亡広告などを見ていると、高齢者の肺炎による死亡が多いことに気付く。ペニシリンなどの抗生物質の開発で肺炎などは結核などと同様に過去の病気になってしまったと思っている我々には不思議なことである。しかし、抵抗力の弱い年寄りは肺炎が重症化して死亡することが多い。

 高齢者の肺炎は肺炎球菌によるものが一番多い。肺炎球菌は誰でも少しは持っている常在菌の一種で、体の抵抗力が強ければ肺炎などにはならない。だが、呼吸器疾患のある人やお年寄りなどは抵抗力が落ちているので、インフルエンザなどが引き金となり、肺炎球菌が暴れ出し、重症の肺炎となることが多い。また、この肺炎球菌による肺炎は脳梗塞、心不全、敗血症、髄膜炎などの重い合併症を起こすことがあるので怖い病気である。特効薬だったペニシリン系の抗生剤にも耐性を持つ厄介な菌が多くなったのも治療を難しくしている一因である。

 この肺炎球菌の予防にもワクチンが有効である。インフルエンザワクチンと一緒に接種するとその有効性が一層高まり、何もしなかった老齢者に比べ肺炎による死亡率が80%も低くなったというスゥエーデンの調査結果もある。

 インフルエンザのワクチンは大分一般にも知られてきたが、肺炎球菌ワクチンのほうはまだ普及度が低く、高齢者の接種率も1%と、米国の50%に比べ極端に低い。このワクチンを接種したほうがよい人は高齢者、糖尿病、腎臓病、肺・心臓疾患のある人である。このワクチンの効果は接種後5~8年持続する。料金が一回\10,000.前後とやや高いのが難点であるが、一年当たりにすればインフルエンザと同額くらいである。肺炎球菌ワクチンの接種は掛かりつけの医師に依頼すれば、手持ちがない場合でも取り寄せて接種してもらえる。    NHK「きょうの健康」03.10月号より