養 老 健 康 百 話
第七話 笑う門には福来る
養老健康百話-7

          笑う門には福来る

 笑いを賛美する諺は沢山ある。「笑う門には福来る」とは、笑い声の満ちている家庭は平和で、朗らかで和合しており、自然に幸福が訪れるという意である。「笑う顔に矢立たず」は、怒って相手に食って掛かろうとしても、その相手に邪気がなくにこにこした笑顔で応じられると、拍子抜けして怒りの感情も失せてしまうの意味である。「笑いは人の薬」は文字通り笑いが心身の健康によいことを表している。

 ところで、笑いは本当に健康によいのだろうか。

          笑いは免疫力を強化する

 「生きがい療法」で有名な伊丹仁郎医師は、十九人のボランティア−の協力を得て、笑いの健康に及ぼす影響を調べる実験を行った。被験者達は、笑いの体験をするために吉本興業で約三時間のお笑い演芸を楽しんだ。その前後に血液採取し、免疫力の指標であるNK活性度とOKT4/8比を測定した。NKはガン細胞などを攻撃するナチュラル・キラー細胞の数値で、これが低いとガンになり易い。OKT比は高過ぎると免疫疾患になりやすく、低過ぎるとガンへの抵抗力が低下する。

 これらの免疫力の指標は笑いの前後で劇的に変化した。NK活性値の直前値が平均より低かった人の値は笑いの直後には全員上昇し、直前値が平均より高かった人の数値も8人中の5人に一層の上昇が認められた。OKT比は直前値の高すぎた人も低過ぎた人も正常値に戻り、もともと正常値の人の数値は不変だった。この実験により笑いが免疫能を強化することが証明された。

           一日三回鏡を見て笑え

 免疫学の立場からガンの免疫力強化療法を提唱されている新潟大学の安保教授は、ガンの治療と予防には食事、運動、休養などの生活習慣の改善の他に笑いが大切であるとして、患者に判り易く次のように説いている。「玄米を主食にして、野菜、魚、納豆などを食べて、深呼吸や体操や入浴などで血行をよくする。あとは鏡を見て一日三回笑うこと。笑顔のおかげで顔色がよくなって、玄米のおかげで便がいい臭いになってくれば、ガンはもう大丈夫です」。

 笑う気分でなくても、鏡を見て無理にでも笑う表情を作ってみるとなんとなく愉快な気分になってくる。そのうち自分でも何となく可笑しくなって笑ってしまう。一日に三回も声に出して笑うことができれば疫病神も退散するより他はない。

          笑いは薬、怒りは毒

 笑ったり、喜んだり、芸術に陶酔したり、楽しいことに没頭したり、ゆったりと寛いだりすると快感ホルモンといわれるβエンドルフィンが盛んに分泌され、自律神経系の働きがバランスよく調和し、全身の血流がよくなり、免疫力が強化される。

 反対に、怒ったり、いらいらしたり、不安になったり、くよくよしたりすると体に緊張をもたらすアドレナリンなどのホルモンが盛んに分泌される。そうすると交感神経が興奮し、血管は収縮し、血圧血糖値が上がり、細胞を傷つける活性酸素が過剰に発生する。この状態が長期間頻繁に続くと老化が早まり、ガンや脳卒中、心臓病などの生活習慣病に罹りやすくなる。

 朗らかに笑って元気に暮らすのも一生、怒りやイライラで病床で暮らすのも一生、同じ人生なら笑わにゃ損ソンということでしょうか。

          小泉首相へ贈る艶笑小噺

 最後に、時局にぴったりな小噺を一つ。時は朝鮮戦争に遡る。イラク戦争同様に米国は国連加盟の各国に参戦を促すが、各国は参戦の是非、規模などにつき国論が中々定まらない。ブラジルでも参戦の可否について国会は大論争になるが一向に結論が出そうもない。  そこで、政府は国連派遣の外交官に現場からの意見を徴することにした。返電はすぐに来たが、内容はたった一言「キンタマ」。大臣、議員らが寄ってタカって議論するが、さっぱり訳が判らない。たまたま掃除係の爺さんが通りかかり、「人間、教育を受けるだけ馬鹿になるらしい」などとつぶやきながら、「これはナー、協力はすれど介入はせずという意味じゃヨー」と見事に謎を解いてみせた。イラク派兵で苦悩されているわが小泉首相も、この小噺を熟読玩味すれば少しは参考になるやも知れない。