養 老 健 康 百 話
第九話 便秘
養老健康百話-9

老人と女性の健康の大敵−便秘

  病気でもなく、医者に行くほどではないが、便秘で憂鬱だという人は多い。便秘が続くと、腹が張り、食欲も落ちる。頭痛、肩こりの他、肌荒れもひどくなる。また、便秘は大腸ガンの発症原因の一つであるから、たかが便秘などと軽視はできない。

 便秘は女性に多いが、男でも加齢により便秘勝ちの人が増える。齢をとると食事の量も減り、腸の蠕動運動も衰え、排便に必要な腹筋、肛門括約筋も弱くなる。また、夜間の頻尿を恐れて、就寝前の水分補給を抑えたりすると、便の中の水分が不足して固くなり、いよいよ排便し難くなる。便が固くなるといきまないと出ないが、いきむと血圧が上がり、脳卒中の危険性が増す。また、固い便で切れ痔になったり、痔が悪化したりする。老人にとっては厄介な症状である。

 若い女性でも美容のためと極端なダイエットに走り、食べる量が少なすぎて便秘になる人がいる。食べ過ぎによる肥満は健康の大敵だが、栄養失調になるような極端な小食は健康を損なう。いくらスリムで美人でも、お腹の中には、臭くて固い糞便が何日分も詰まっているのでは艶消しも甚だしい。

乳酸菌などの善玉菌を増やす

 人間の腸内には何百種類何兆個もの細菌が住み付き、健康を左右している。これらの細菌にはビフィズス菌を代表とする善玉菌とウェルシュ菌を代表とする悪玉菌、状況によって善玉になったり悪玉になったりする日和見菌がある。

 ビフィズス菌などの乳酸菌は乳酸と酢酸を生成し、腸の蠕動運動を助け、悪玉菌の増殖を抑制している。また、悪玉菌の作り出す発癌物質を分解無毒化する。一方、悪玉菌は食物中の脂肪や蛋白質からニトロソアミンなどの発癌物質を生成する。

 この善玉菌と悪玉菌の比率は加齢、病気、ストレスなどによって変化するが、便秘は悪玉菌を増やし、善玉菌を減らす。便秘を防ぎ、善玉菌を増やすには、乳酸菌食品のヨーグルトなどや納豆、テンぺなどの発酵食品の積極的な摂取によって絶えず善玉菌を外から補給し、善玉菌の食料となる食物繊維を豊富に含む食品を意図的に食べると良い。

食物繊維を豊富に含む食品を摂ろう

 食物繊維は善玉菌の餌となるばかりでなく、便の量を増やし、水分を吸収して便を柔らかくする。かっては食物の滓として見向きもされなかったが、二十年ほど前のアフリカ原住民の栄養調査の結果、成人病予防の切り札の一つとして俄かに脚光を浴びることになった。

 調査対象となったアフリカ原住民の人達は、欧米人に比べると、心臓病、脳卒中、大腸ガンなどの生活習慣病が圧倒的に少なかった。そこで、その食習慣を調べると、主食は皮つきの雑穀を粉にして食べ、肉などはあまり摂らない粗食であった。成人病が少ない原因は食物繊維の多い雑穀の主食と、少なめな動物性脂肪と蛋白質の摂取にあったのである。その後、世界中の長寿村の調査やら動物実験の結果、動物性脂肪と蛋白質の過剰摂取、および食物繊維の摂取不足が先進国の生活習慣病多発の一因であることが証明された。そして、現在ではガンなどの生活習慣病を防ぐには、食物繊維を豊富に含む緑黄色野菜、根菜、果物、茸類、海藻、穀物の摂取が大切だと説かれるようになっている。

頑固な便秘に大腸の内視鏡検査

 普通の便秘なら、食事と運動を主にした生活習慣の改善ですっきりとするのだが、長年、便秘薬を常用し、頑固な慢性便秘になっている人の症状は一朝一夕には治らない。このような人々に有効なのが、大腸の内視鏡検査とその後の腸内環境の再整備である。

 頑固な便秘に悩む人の一番の心配は大腸ガンであろう。この心配を払拭するためにも、便秘対策にはまず内視鏡検査である。内視鏡検査はガンの早期発見に役立つが、頑固な便秘を起こす腸内環境のリセットにも大いに有効である。内視鏡検査は怖いから嫌だと言う人もいるが、軽い麻酔もするので内視鏡検査それ自体に苦痛は殆どない。モニターで自分の腸内を見ながら検査が受けられる。むしろ、前日に検査のために下剤入りの大量の水を飲むのが一番大変かも知れない。しかし、この下剤入り水のお蔭で今までお腹の中に溜まっていた古い便がきれいに洗い流され、腸内環境はリセット状態になる。

腸内環境の再整備にニガリ入りヨーグルト

 内視鏡検査が終わり、ガンの心配もなくなつたら、本格的な腸内環境の再整備に取りかかる。まず食生活の改革を医師と相談しながら実施する。主食を玄米か麦飯にし、食物繊維の豊富な緑黄色野菜、バナナ、リンゴなどの果物、ひじき、若布などの海藻、茸などを積極的に摂る。さらに、生きた乳酸菌や酵母を含むヨーグルトなどの発酵食品を意図的に摂り、善玉菌を増やし、悪玉菌をやっつける。ビオフェルミン、わかもと、エビオスなどの乳酸菌製剤を服用すればさらに効果が上がる。その際、ニガリ液をヨーグルトなどに加えて飲むと便秘解消に益々効き目がある。

 ニガリは塩の精製過程でとれる副産物であるが、マグネシウム、カリウムなどの貴重なミネラルを多量に含む。マグネシウムは便の量を増やす便秘薬に使われるが、水分を便に吸収し柔らかくする働きがある。また、カリウムは日本人の胃ガンや高血圧の元凶である塩分過剰摂取の害を緩和する。さらに市販のニガリ液には日本人に不足し勝ちなカルシウムなどのミネラルが補強されている。

 その他、適度の運動、規則正しい生活、朝食の摂取、定時の排便習慣など、便秘防止によいと言われている生活習慣を守り、定着させることも大切である。(安心2004.4より)