OB達が寄ると誰もが遠い故郷を想うような目をして、東燃はいい会社だったねと言う。その言葉には東燃の良き伝統が何らかの形で繋がってほしいという思いが込められているように感じる。東燃の良き伝統とは何だろう?
その昔、松下幸之助氏は「おたくは何の会社と聞かれたら、うちは人をつくる会社です。ついでに電気製品も作ってますと答えなさい」と社員に教えたそうだ。うまい事を言ったもんだが、東燃の歴代の経営層たちも幸之助さんに負けず劣らず「人づくり」に努めてこられたに違いない。
自分の経験でも、東燃は従業員を人間として大事にし、その自発性を尊重し、課題挑戦への試行錯誤の機会を充分与える事によって、実戦的に人を作ってきたと思う。また、日本的な価値観を大事にしつつ欧米流の技術、事業運営手法などを自分なりに吸収する「和魂洋才」が尊ばれた。その環境の中で多様な思考が育ち、自由で、前向きな、かつ柔軟な人の集団ができたと思う。
この人づくりは企業文化となって表れる。企業文化は企業風土・体質とは違って、社会的価値創出の為のその企業特有の大事な苗床のようなものだ。東燃の企業文化とは、自主設計の設備を効率的に運転する事、精製事業の運転システムや全体の事業システムを自分で構築し適切に運営する事、優れた事業オペレーションの遂行を旨とする事、エネルギー産業自由化の中で多角化への挑戦と既存事業の安定を同時に追求する事、などが挙げられる。
私は企業の優劣や盛衰は戦略よりも人づくりと企業文化で決まると思っている。業界大変動の中で4年前、東燃の名が遂に消えた事には我々にも責任の一端があり、まことに慙愧に堪えないが、東燃のよき伝統である「人づくりと企業文化」が今の大統合会社にどう活かされるか、期待を込めて見守りたい。
最後に、喜寿を迎えるにあたり、先輩、同僚、後輩に恵まれ前向きで愉快な会社人生を送る事ができた事に心から感謝致したい。
以上